以前、こちら↓のコンテンツで、野村克也氏の嘆きを紹介しました。
・「野村の遺言」キャッチャーとは 捕手育成・指導者不足への危機感
この中で野村氏は、「脚本家」たるキャッチャーのリードがいかに試合を左右するかを強調されています。
そして現在のプロ野球では、優れたリードで試合を作る「名脚本家」が不足しており、育成が急務である、と警告されているのです。
(ソースは週刊新潮です)
しかし、雑誌「週刊文春」に、「キャッチャーはリードよりも、バッティングの実力がまずはモノをいう」とする記事がありました。
ジャーナリスト・鷲田康氏がコラム「野球の言葉学」で、西武ライオンズの森友哉捕手をトピックにされていたのです。
ハッキリ言って、現時点の森選手はプロの正捕手としては、リードはじめ上達の余地が大きく、一軍では厳しいようです。
こう聞くと「正捕手にはまだ早すぎる!やっぱりキャッチャー不足だ!」という話になりかねないわけですが、森選手のピカイチのバッテイング技術を勘案すると、また話が違ってくるようなのです。
記事の一部を以下に抜粋します。
大阪桐蔭高から一昨年のドラフト一位で入団した森は、とにかくその打撃センスに特筆すべきものがある。
スイングスピードが速く、手首を柔らかく使えるから、変化球にもついていける。飛距離も出る。加えてどんな場面でも思い切ってバットを振れる度胸の良さは、プロ二年目とは思えない貫禄すらも感じさせるのだ。
当然、田辺徳雄監督(49)もその非凡なバッティングを買って先発で使っているが、ポジションが本来の捕手ではなく指名打者というところが悩みの種なのだ。
「今の森は捕手としては、とても一軍で使えるレベルではないからです」
こう語るのはスポーツ氏のベテラン遊軍記者だった。
「キャッチングが悪く変化球をポロポロやる。肩が強いのが唯一の救いですが、高卒二年目ではリードなどインサイドワークも推して知るべしでしょう」
昨年は優勝争いから脱落した八月末から十四試合で先発マスクをかぶったが、経験不足でピンチになるとパニくる場面が何度もあった。しかもオフには運転免許の筆記試験に三度もおちる、”おバカキャラ”ぶりに、今季は捕手での起用は未だゼロなのである。
捕手として育てるには、辛抱強く時間をかけて経験を積ませていくしかないのですが、今の力ではとてもムリ。それならじっくりファームで、という意見もありましたが、そういう長期的な育成計画をすべて吹き飛ばしたのがあのバッティングセンスだったんです」(在京の放送関係者)
捕手としてはまだまだだが、打撃の魅力があまりにも大きい、というわけです。
「キャッチングやリードがダメなんだから、捕手としては失格。正捕手は無理」とも言えそうですが、捕手として実績を残したこの方の意見はそうではないようです。
「リードで正捕手を奪った選手なんかいないんです。キャッチャーだって、結局は打撃が良くて肩が強い選手がポジションを取る」
こう看破したのは野村ID野球の申し子、元ヤクルトの古田敦也さん(49)だった。
古田さんはプロ二年目にして正捕手の座を固めた。その背景として、もちろんインサイドワークもあったかもしれないが、実は一番の理由は打率三割四分と打ったことだったというのが実感だったのである。
思えば今は球界を代表する頭脳派捕手となった中日・谷繁元信兼任監督(44)も、島根・江の川高からドラフト一位で横浜大洋(現DeNA)入りした直後は「打撃はいいけどリードが・・・何せ頭が悪いから」と首脳陣を泣かせたものだった。
それでもまず打つことで、打線に自分の場所を得た。そこから経験を積み重ねることで、捕手としても成長していった訳である。
頭脳は捕手を一人前にするが、まず打つことが捕手を最初に作る。ならば森も、まずはその非凡な打撃に磨きをかけることこそが、捕手としての出場と大成への近道なのかもしれない。
谷繁氏ですら、正捕手になった当初はイマイチだったわけです。
冒頭で紹介した、当サイトの過去記事では、野村氏の「ちゃんとしたリードのできる実力のあるキャッチャーがいない」という嘆きを紹介しています。
確かにこの分析は正しいのでしょうが、森選手の場合、まずは打撃の良さを活かして試合に出場し、捕手としての実力も徐々につけていく、という選択肢もあるはずです。
それを続けていけば、野村氏も納得する捕手として完成するのではないでしょうか。
(このコンテンツは雑誌週刊文春 2015年6/4号140ページを参考にしました)