落合博満選手といえば、三冠王に三度輝いた野球史に残る大打者です。

投手からすれば、落合選手のような「どこに投げても打たれる」相手であっても、どうにか打ち取らなくてはいけません。


かつて東京スポーツ新聞に連載されていた「川口和久 Gキラーのダンディズム」の第35回で、川口投手が「落合選手から三振を奪うにはどうすればいいのか」に腐心された様子を記されていました。
 

 
考えに考えた末、川口投手がたどり着いた「決め球」はちょっと意外なボールでした。
 
以下に一部抜粋して紹介します。

自分の現役生活の中で一番印象深かったのは中日の落合博満さんとの対戦だ。相手は三冠王に3度も輝いた日本球界で最高の打者なのだから、投手としては投げさせてもらえるだけでありがたい。
 
そんな落合さんから三振でも取ろうものなら・・・。そう考えていたあのころのボクは「いかにして落合さんから三振を奪うか」ということを常に考えていたように思う。
 

 
だが、それは難しいテーマだった。何しろただ打ち取るんじゃなくて「三振」なのだ。落合さんは苦手なコースがほとんどなかったし、とにかくバットに当てるのがうまく「一番打ちにくいコース」と言われるインハイの直球も、コンパクトに腕をたたんでパーンとはじき返されてしまう。
 
外角球も得意の流し打ちでスタンドまで運ばれてしまうから、そうなると配球で工夫するしかない。
 
内外、高低の揺さぶりか、緩急を使うか・・・。手痛い一打を何度も浴びながら、試行錯誤の末にたどり着いたのは意外なボールだった。「ど真ん中の緩い球」。落合さんはこのボールに必ずと言っていいほど手を出してこなかった。
 
落合さんが薄笑いを浮かべながら打席に入り、ボクが目であいさつすると落合さんもニヤリと笑う。その笑顔を見て「今から勝負が始まるんだ」と武者震いし、体中からアドレナリンが出てくるような感じが自分でもよく分かった。
 
投球の組み立てとしては、まずはしっかり腕を振った直球をボールゾーンに2球続け、カウント0ー2にする。そこからカーブか、抜いたシュートをど真ん中に投げると、落合さんは必ずこのボールを見送った。
 
普通は怖くて投げられないボールだろうが、ボクは「落合さんはど真ん中を打てないんだ」と自分に言い聞かせて、このボールを投げていた。
 
カウント1ー2になったところで、次の球に選択したのは真ん中高めの直球だ。これもハンパなボールではスタンドへ持っていかれてしまうため、思い切り腕を振った。ファウルにさせるのが理想で2ー2にまで持っていき、5球目は4球目よりやや高いボール球の直球で2ー3に。
 

 
そして最後は直前の直球と同じ高めの軌道から、真ん中に落ちてくるカーブで勝負!見逃し三振に倒れた落合さんが、プイと背を向けてベンチに帰る途中、ニヤリと笑ってマウンドに視線を向けた時は最高にうれしかったものだ。

決め球が「ど真ん中の緩い球」とは、かなり意表を突かれる選択です。
 
もちろん、何も考えずにこの球を投げても簡単に打ち返されてしまうでしょう。決め球に至るまでの組み立てが必要ですし、状況によっても変わってくるのでどんな場面でも通用するわけではありません。
 
しかし考え抜いた末に落合選手をうちとった川口さんの配球や考え方は大いに参考になるのではないでしょうか。
 
川口さんは「投球論(Amazon)」などの著書で独自のピッチング理論を語られています。「巨人を苦しめ、最後は巨人を助けた」川口さんの考え方を参考にしてみてはいかがでしょうか。