伊藤博一帝京平成大学教授が、著書「スポーツ医・科学の立場から考える野球技術の大原則」で学童野球におけるスローボールの有効性を強調されています。

スローボールは打者をおさえるのに効果的なだけでなく、肩や肘のケガ予防にも貢献してくれるのです。
 

 
伊藤教授による解説を、同書の88ページから一部抜粋して紹介します。

Amazon

スポーツ医・科学の立場から考える野球技術の大原則





高校野球・学童野球いずれも打者のタイミングを外しやすいスローボール

研究によると、スローボールは高校野球で打者のタイミングを遅らせるのに効果的なことがわかっています。

直球の握り方のままで極端に球速を抑えた山なりのボール、いわゆるスローボールは、学童野球公式戦において使用が認められています。
 
高校野球選手のマシン打撃を用いた先行研究では、バットスイングのタイミング誤差はカーブよりもスローボールのほうが大きいことが明らかになっており、スローボールは打者に対して球種の判別を遅らせる有効なボールであることが報告されています。
 

このスローボールの特長は学童野球でも同様です。

高校野球の投手と比較すると、学童野球の投手(高学年)では直球の平均ボール初速度が約30km/h落ちますが、投手板からホームベースまでの距離が短いため(高校野球18.44m→学童野球16m)、結果的に打者は高校野球の選手と同等の時間的制約下で打撃を行っていることになります。
 
そのため、スローボールは学童野球においても打者のタイミングを外す有効な手段となります。

戦術的に有効なのに加えて、スローボールを投げることにより投球の強度を下げることができます。
 
全力投球の数が減り、腕への負荷が減るので肩・ヒジ関節の投球障害予防にもつながります。
 
これも大きな利点と言えます。

スローボールの使用頻度 直球に威力のある投手が多投

それではスローボールはどれくらい投げられているのでしょうか?
 
伊藤教授の調査があります。

都内の学童野球公式戦に登板した78名の投手を、直球の平均ボール初速度によって低速群26名、中速群26名、高速群26名の3群に分け、スローボールを使用した投手数の割合を見てみると、低速群は50%、中・高速群では80%を超えており、特に直球に威力のある投手ほどスローボールを使用する傾向がありました。
 
また、これら投手によって投じられたスローボールの球数を見てみると、特に高速群においてはスローボールの使用頻度が高い傾向がありました。
 
なお、高速群においてスローボールの使用頻度が最も高かった投手(6年生、身長154.0cm、体重45.0kg、野球歴6年、直球の平均ボール初速度93.7km/h)は、1試合で投じた全119球のうち、スローボールは28球(23.5%)でした。
 

以上の研究結果を踏まえた伊藤教授のまとめです。
 
・学童野球公式戦では変化球の使用が禁止されている
 
・スローボールは戦術的にも有効で、肩・ヒジ関節の投球障害予防にもつながる球種
 
・直球に威力のある投手ほどスローボールの使用頻度が高い