元ヤクルトスワローズの宮本慎也さんは、長嶋茂雄さんの大ファンだったお父さんの影響で野球を始めました。

学校から帰ると団地の壁にチョークで的を書き、硬式テニスのボールをぶつけて捕球練習をしました。
 
(このコンテンツは週刊現代2013年12/28号(Amazon)を参考にしました)





この”壁当て”が、現役時代の宮本氏の堅守を作っています。

僕は腕をどう振れば、相手のどのあたりに投げられるか、ボールを握った時点である程度、感覚がわかるんです。これは教えてできるものじゃない。
 

 
壁当てや父とのキャッチボールを通じて、知らない間に磨かれていったものかもしれません。

宮本氏は高校、大学、社会人そしてプロと全てショートを守っていましたが、08年途中からサードにコンバートされます。
 
これは本人にとっては”左遷”に等しく、ショートへのこだわりが強かった宮本氏は「ひどい仕打ち」と感じていました。
 
かつての西鉄黄金時代の中心選手であり、ショートの名手として知られた豊田泰光氏は、宮本選手が引退した後、日経新聞のコラムにこのように書いています。

遊撃は捕手とともに野球というゲームの中心点に位置するのだ。二塁も立ち位置は似ているが、動きのスケールが違う。
 
三塁なら取れなくても前に落とせば間に合うが、遊撃はお手玉が命取りになる。
 
宮本はそこにスリルと誇りを感じていたはずだ。
 

これは宮本選手がショートの守備に感じていた魅力を代弁しているのではないでしょうか。
 
とはいえ、コンバートされた翌年から4年連続でゴールデングラブ賞に輝いています。2013年時点で、過去に2つのポジションで合計10回ものゴールデングラブ賞に輝いた選手はセ・リーグでは宮本選手だけです。
 
それまでショートの名手として鳴らした宮本選手でしたが、コンバートされてからはサードの難しさを身を持って経験していました。

ショートとサードではゲームに入っている感覚が、全く違う。
 
たとえば打球が外野に飛べば、ショートはすぐにベースカバーや中継に動かなくてはいけない。しかしサードはランナーがいないと動かなくていい。
 
そんなこともあって最初はゲームに入っていけない自分もいました。

といってもショートよりもサードは楽、というわけでは決してありません。
 
ショート場合、ピッチャーが投げるボールのコースが見やすく、バッターの動作も確認しやすいので”このへんに来る”と打球方向がある程度判断できます。
 

 
しかしサードからはその情報が得られません。そのため宮本選手はサードの守備についてこのように語っています。

打球の到達が速いので、もうバッターの反応だけで判断するしかない。
 
打球処理だけに関して言えば、ショートよりもサードの方が難しいかもしれません。