2013年まで阪神のスカウトとして、赤星選手や鳥谷選手といったスター選手を獲得してきた菊地敏幸氏は、高校時代の藤浪晋太郎投手の存在感をこのように表現しています。

連覇を達成した年は、もう高校生とは思えない威圧感があったよね。なによりあのタッパでしょう。自信満々の上から目線というか、打席に立った瞬間から、もう相手バッターを飲み込んでいく絶対的な自負が漂っていましたね。あんな高校生そうそういない。


2012年の8月、藤浪投手は大阪桐蔭のエースとして春夏連覇を達成しました。
 
(このコンテンツは週刊現代2017年9/9号(Amazon)62~65ページを参考にしました)


その時の様子は、スポーツライターの安倍昌彦氏にも強烈な印象を残しました。

あれだけの大舞台で、まず表情を変えない。どんな精神構造なのかなと思って見ていました。試合でのクレバーさもそうだけど、もっと印象的だったのが、取材での受け答え。
 
藤浪はインタビュアーが男性でも女性でも、相手に近づいて、まったく目を逸らさずに話すんです。シャイな大谷(現・大リーグエンゼルス)がずっと目を合わせずに話すのとは対照的でした。

藤浪投手はドラフトで4球団から1位指名を受け、阪神に入団します。当時の投手コーチ、中西清起氏は藤浪投手に「プロ向きの素質」を見いだしています。

初めて直接会った時は、物静かな子だな、と思った。コントロールがすごく良いというわけではないんだけど、ここぞというときにアウトローにビシッと決める能力は別格だった。
 
素材もメンタルもプロ向きだから、カットボールを覚えさせたり、インステップを修正したり、無理のない範囲で少しずつ改良していきました。
 

本来持っていた素質がプロの指導により磨かれ、藤浪投手は15年までの3年間で10勝、11勝、14勝と勝ち星を順調に伸ばしていきます。
 
不動の「阪神のエース」となったかに思われました。
 
しかし2016年のシーズンから制球が乱れ始め、リーグワーストとなる与四球70を記録してしまいます。
 
2017年時点の藤浪選手について、球団関係者はこのように語っていました。

今年は春のキャンプから気合いが入っていた。いい形で進んできたが、WBCに行ったことで狂ってしまった。本人曰く、「縫い目のでこぼこ感や皮の滑り具合など手触りが日本とまったく違って感覚がわからなくなった」と。あれで決定的にフォームが崩れた。
 
ただ、それなりに投げられているし、イップスというほどの状態ではないというのがウチの認識。話しやすいように、去年まで現役だった福原コーチをつけているが、手取り足取りいうわけではなく、見守っている感じです。

前出の中西氏は、この球団の対処に疑問を呈しています。

本当なら、一刻も早くまわりの人間が「変える」のではなく「省く」ことを教えてやらなきゃいけない。頭のいい子だから、自分でどこが悪いか気づいているはずです。
 
でも、野球は頭よりも先に、体で覚えてやるもの。悩んだ末に身についてしまった余計な動きを、一つずつ取り除いてやらないと。
 
つきっきりで本気になって「気持ち」を立て直してあげるべきです。
 

冒頭では藤浪投手の”ふてぶてしさ””精神の強さ”を示す逸話を紹介しましたが、一方で「意外と気にする」性格であることを示す場面もありました。
 
前出の菊地氏は、高校時代の藤浪投手のこんな「兆候」を感じていました。

高校のときから、ランナーを一塁に背負うと、プレートを外して「牽制のフリ」をすることが妙に多かった。かなりランナーを気にするんだけど、実際にはほとんど牽制しない。
 
当時から「大事な場面で抜け(て暴投し)たらどうしよう」という「不安の種」を頭の片隅に抱えていたのかもしれません。

藤浪投手のスランプは、WBCで勝手の違うボールを投げたことが一因であることは間違いないでしょう。
 

 
それともうひとつ、この記事の最後では藤浪投手の”真面目”で”ストイック”な性格が指摘されています。
 
真面目であることはマイナス要素ではありませんが、真面目すぎると、ちょっとしたつまづきにも拘泥しがちになるのではないでしょうか。
 
ある程度のテキトーさというか、”気にしない”ユルさも必要だと思うのです。
 
気にするにしても、ごく浅い程度で止めておくとか。
 
これは野球に限らず、人生全般にもいえるような気もします。
 
性格を変えるのは難しいですが、藤浪選手が本来持っている力をさらに出すには、もう少しユルくやるのが良いのではないでしょうか。