近年、少年野球人口が減っているという報道を目にするようになりました。
これは子供の数そのものが減っているのに加え、子供が野球以外のスポーツを選んでいるから、という指摘もあります。
「もの言う選手」として活発に発言している筒香嘉智選手も、同様の考えを持っています。
以下に筒香選手の考えをまとめます。
筒香選手「日本の指導は勝利至上主義」
2018年11月20日、東京・品川で行われた「子どもの権利とスポーツの原則」発表会で、筒香選手はビデオでメッセージを送りました。
大切なのは、目の前の結果や大人側の自己満足ではなく、子供たちの未来が主体であることだと感じています。
筒香選手は、野球人口減少の原因は、指導における”勝利至上主義”にあると考えています。
少年野球では予選を勝ち抜き、大きな大会に出場して優勝すればチームの名声は高まり、選手も集まります。
そのため指導者も保護者も勝つことにしか価値を見いだせなくなっています。
そして行きつくところは勝利至上主義、というわけです。
失敗を許さないパワハラまがいの指導だけでなく、長時間の練習、過密なスケジュールによる故障、体の酷使は現実に問題となっています。
筒香選手は初めての著書「空に向かってかっ飛ばせ!(Amazon 試し読み・kindle版あります)」で、今の指導の問題点や今後の指針などを提言しています。
以下に一部を抜粋して紹介します。
子供たちにとって楽しいはずの野球が、そうではなくなってしまっているのがすごく気がかりです。子供たちが大人の顔色を見てプレーするようになってしまっています。
しかも指導者は勝つための技術や動きばかりを求めて、ミスをした選手に罵声を浴びせる。いまだに指導者が選手に手を上げるような場面もあるともききます。そうなると子供たちが自分で考えて、失敗してもいいから、色々なことにチャレンジすることはなくなってしまいますよね。子供が成長するチャンスを奪ってしまっている。
それが少年野球だけでなく高校野球も含めた、いまの日本の野球界の現実ではないでしょうか。
海外(ドミニカ共和国)での少年野球指導は
それでは、海外での少年野球はどうなのでしょうか?
実は、筒香選手が日本の野球指導に違和感を感じたきっかけは、海外の実状を目にしたことでした。
筒香選手は2015年のオフにドミニカ共和国で開催されているウインターリーグに参加しています。
またプロ二年目のオフから2016年まで、米国ロサンゼルスの施設でトレーニングを行っています。
そこで目にした少年野球は日本とはかなり違うものでした。
ドミニカではメジャー球団が運営する野球アカデミーを見学し、街中のグラウンド少年野球も観戦しました。
印象に残っているのは、とにかく打者はみんなフルスイング、投手は目一杯の速い球を投げることに集中していることです。
守備を見ていても、小学生とかが平気でジャンピングスローをしたりする。日本だと「もっと基本に忠実にやれ!」と怒られると思うんですが、彼らは子供の頃からああやって色んなことを試しながら、どんどん上手くなっていく。そういうことを許す環境があるということです。
でも、勝つことだけが目標になれば、そういうプレーは許されなくなってしまう。もちろん基本は大事です。ただ、色々なことを試して失敗して、その中から自分で考えて覚えていく。
指導者というのは、その考える作業や覚えていく方法を手助けするのが、本来の役割だと思います。ほどよい距離感を保ち、笑顔で選手を見守っていたドミニカの指導者の姿が強く印象に残っています。
筒香選手の少年時代の指導者は「自分で考える」を許容
いまでこそ押しも押されもせぬ日本代表の強打者となった筒香選手ですが、少年時代から好成績ばかりを残していたわけではありません。
僕は子供の頃から本当に不器用で、何をやっても最初は思い通りにできないことが多かった。
中学一、二年の頃は故障に悩まされて、野球を満足にできない時期もありました。
そんな筒香選手を救ったのは、勝利至上主義の叱責や強制するような指導ではなく、「自分で考える」ことを許す周囲の理想的な環境でした。
ただ、そういう局面で最初に本格的に野球を教えてくれた兄(裕史さん)であったり、堺ビッグボーイズの瀬野(竜之介代表)さんであったり、大村(厳・現千葉ロッテ打撃コーチ)さんであったり、周囲の人々のアドバイスがあり、自分で色々なことを考えて乗り越えてきました。
これまでも自分の野球人生について取材で聞かれたことは何度かありました。自分自身のことを話すのはあまり得意ではなかったのですが、同じような境遇の子供やそういう子供を持つ保護者の人たちの何かヒントになればと重い、お伝えすることにしました。
言うまでもありませんが、野球選手としてのキャリアは、少年から高校時代までで終わるわけではありません。
大人になっても趣味で続ける、プロとして活躍するなど、人それぞれの「野球人生」があるのです。
少年時代で野球が嫌いになったり、ケガで続けられなくなるのはあまりにも残念です。
これからの時代は、上からの指示に従うだけでなく、自分の頭で考えて行動できる人材こそが活躍できるようになる。
僕はそう思っています。僕だけでなく、世の中全体にそういう空気が広がっているからこそ、野球界の古い体質が敬遠されてしまっているのではないか、とも思います。
勝利至上主義でなく、子供の未来を見据えた指導こそが野球人口の裾野を広げることになるのではないでしょうか。